ピリポの復元

Head of the Philip - original最後の晩餐 ピリポ 頭部の復元

 

壁画のピリポの頭部は決して状態が良いとは言えませんが辛うじててピリポ本来の表情の片鱗を見せるまで回復しています。
このピリポの表情は難しい短縮法で描かれています。そのため、後世の画家たちが補修した際にその難しい短縮法についていけず、かなりいびつな表情に描き変えられていました。しかし、ピニン・ブランビッラ氏による修復後はかなりレオナルドのオリジナルに近い描写に戻され、最後の晩餐の中での重要な場面構成の一部を担っています。

 

ピリポ頭部の素描

study for the head of  Philipウィンザー城コレクションにはピリポの為の見事なデッサンが残されています。

一見するとそのまま最後の晩餐に使えそうに見えますが、実際にはかなりの修正を必要とします。

特に額の部分に修正が必要で、かなり短くしないと壁画には適合しません。この辺りが短縮法の難しい点になります。

こういった人物の頭部を難しい短縮法で描くというのはこの時代に流行った描き方で、一流の画家の証のような技法でした。そのため多くの画家が自身の絵画に取り入れており、レオナルドも例外ではありません。

レオナルドがこの角度からの描写で最も影響を受けた作品は同じ工房で働いていたロレンツォ・ディ・クレディの「受胎告知」ではないかと思われます。天使の顔の表情のほか、豊かな巻き毛の表現にもピリポの原型を見ることができます。

下の画像はピリポのデッサン画を壁画と復元図に重ねて比較したものです。

ピリポのデッサン画は額の他、顎のラインに関しても壁画とは若干の違いを見せています。

 

Philip-original最後の晩餐 ピリポ 頭部の復元Reconstruction image-overlay the study

壁画、デッサン画、復元図の比較

 

 

復元過程

最後の晩餐 ピリポ 頭部の復元壁画のピリポも全体としてはかなり厳しい部分があります。ほとんどの部分が欠損しており、壁面がむき出しの状態です。

残されているのはほぼ輪郭だけなのですが、この輪郭にしても信頼できない部分も何点かあります。

一つはピリポの顎のラインで首の辺りが下に下がり過ぎており、おかげで首がありえないほど太い描写となっています。実際にはもう少し上の方に修正し首のラインをすっきりさせる必要があります。

もう一つは頭部を含む体の外側のラインで、全体的に右方向に膨らみ過ぎていると感じます。特に髪の毛の部分、首、肩の始まり部分が右にずれていると感じます。

 


 

最後の晩餐 ピリポ 赤いマントの復元頭部の復元。

このピリポの表情は最後の晩餐の中でも重要な表現部分になるので復元の難しい部分となります。

レオナルドの時代の複製画でこの部分を正確に描写できている作品はほとんどありません。唯一参考にできるものはジャンピエトリーノの複製画のピリポだけになります。


 

最後の晩餐 ピリポ 赤いマントの復元赤いマントの復元。

壁画ではほとんどの部分が欠損しています。そのためピリポのマントがどのように描かれていたのかは全くわからない状態です。

そのため復元図はジャンピエトリーノの複製画をもとに再現しています。


最後の晩餐 ピリポ 復元完成手と青い衣服の復元。

レオナルドの残した数少ない作品では描かれている人物の衣服の青は大抵の場合こういったやや黒味がかった暗い彩度の低い色合いとなています。

同時代の画家が描いたような鮮やかな青で描かれた作品は一点も残されていません。

 

 

複製画の比較

Vatican's PhilipGiampietrino's Philip

ヴァチカンのタペストリー
ジャンピエトリーノの複製画

 

 

衣服の描写に関しては概ね同じ描写となっています。復元図ではこの二つの複製画の特徴と壁画に残された痕跡を元に描いています。

また、人物だけではなく、テーブル上の皿の配置やコップの中のワインの量、パンやオレンジの位置に関してもこの二つの複製画は重要な参考資料となります。

 

 

ピリポの足の復元

In the mural Philip's feetReconstruction Philip's feet

 

現在の最後の晩餐の画面ではこのテーブルから下の部分の保存状態が極めて悪く、ほとんど描画層が残されていません。

おそらく保存のための修復がかなり早い段階から放棄されていた可能性があります。その最もひどい例がイエスの足元でしょう。修復するどころか壁に穴を開けて通路を設置するなど絵画としての必要性を全く感じていない処置となっています。こういった扱いが何世紀も続いた結果が画面下の保存状態に反映されていると思われます。

 

 

テーブル上の皿と料理の復元

 

Reconstruction the still life on the table-1Reconstruction the still life on the table-2

 

最後の晩餐で何が描かれていたのかについては人物はもちろんのことながらテーブル上の静物に関しても重要な要素となります。

しかし、最後の晩餐にはかなり多くの複製画が描かれているにもかかわらず、このテーブル上の静物を正確に描かれているものがありません。ほとんどの場合が省略されたり、描き変えられたりしています。特に皿の上の料理が様々で、いったい本当は何が描かれていたのかを特定することは困難な状態となっています。

おそらくは魚であったとは考えられますが決定的な証拠があるわけではありません。うなぎという説もありますが、魚よりももっと信憑性が低いと感じます。

結局、復元図ではブレラ美術館が所蔵するCesare Magni作とされる最後の晩餐の複製画を参考に復元しています。この複製画では右側の大皿にに二匹の魚、左側の大皿に多数の魚が描かれています。この二匹の魚という点が重要で、キリスト教の中で有名な二匹の魚に関する逸話に基づいた描写ではないかと思われます。

レオナルドの描いた最後の晩餐でも左側の大皿は多数の魚で描かれた痕跡が確認できます。右側の大皿に関しては残念ながら描画層が完全に欠損しているので判断できませんが、二匹の魚であった可能性も十分あるでしょう。

 

 

http://leonardoresearch.jp/  September 7 2014