

下の図はウィンザー城コレクションが所蔵するレオナルドによるユダ頭部のデッサン画です。
素描は下地処理を施された紙に赤チョークを使って描かれています。レオナルドは同時期に黒チョークで描かれたデッサン画も多数残していることから、こういった人物デッサンにどちらの色を使うかをレオナルドは厳密には区別していなかったようです。
このデッサンではユダの容貌はやや老人的な特徴を見せていますが、実際の壁画ではもう少し若い風貌で描かれていたことが多くの複製画から確認できます。レオナルドも実際に壁画に描く際にはそういった変更を施していたかもしれません。
また筋肉がはっきりと浮き出た首の描写も多くの複製画では殊更に強調されて描かれてはおらず、その表現はやや控えめな印象を受けます。
デッサン画のようにあまりに筋肉と筋だけのような描写は老人的すぎると判断されたためでしょう。
微妙な角度をつけられたユダの頭部はやや後方に向けられているので表情が描けるスペースが限られているにもかかわらず、そのわずかなスペースでユダの繊細な表情を表現している辺りがレオナルドならではの卓越した技量と言えます。
私はこのユダの視線の向きに注目しています。ユダの視線がやや後方に向けられているということはユダはイエス・キリストより手前に描かれていることになります。つまり、このユダのデッサンが描かれた時点ではレオナルドはユダをテーブルの手前に配置しよう考えていた痕跡があります。
レオナルドが最後の晩餐のために準備した素描ではユダは一人だけテーブルの手前に座っている伝統的な構図で描かれています。
その構図をレオナルドは途中で破棄するのですが、このユダの素描が描かれた時点ではまだレオナルドは伝統的な構図に固執していた可能性があります。
素描の特徴1, 老人を思わす風貌
2, ヒゲのない顎
3, 短い髪の毛
4、やや後方への視線
原画の状態
ユダの原画で特徴的な部分はユダの肌の色でしょう。
12人の中で一体誰がユダなのか?それを一目瞭然とするためユダの肌は暗い影に沈められています。
肝心な顔の表情までは判読はできないのですが輪郭などはかなり残されており、復元する際の目安にはなります。
原画の状態 輪郭の状態はそれほどひどくはありません。
顔の復元
ユダの顔はレオナルドのデッサン画を元に復元できますが若干の修正は必要になります。
特に注意すべき点は視線の向きで、デッサン画のままではユダの視線はイエス・キリストの頭上の上を超えてしまいます。そのためユダの目元は瞼を少し下げて視線を下げる必要性があります。
また、デッサン画よりも幾分若く見えるよう、額の皺などは控えめな表現に抑えて描いています。
ユダの顔の色に関しては必要以上に暗い色では再現していません。あまりに暗い色は画面全体の調和を乱すと感じるからです。
しかし、多くの復元図ではかなり思い切った暗い色で再現されている例も多いので、実際レオナルドの原画でもかなり暗い色であった可能性はあります。
顔と髭の復元 視線はデッサン画よりも少し下げて描いています。
マントの復元
原画ではマントの輪郭はかなり残されていますが、その内側の詳細な描写はあまり良好とは言えません。
そのためマントの詳細な形状は概ねジャンピエトリーノの複製画を参考に復元しています。
細部の描写に関しては岩窟の聖母に描かれているマントの描き方を参考に復元しています。またマントの緑色に関しては原画に残されている色味を参考にやや深い緑色で再現してみました。
マントの色合いは壁面に残る色を参考に復元しています。
胸元の衣装の復元
私の復元図ではユダの胸元の衣服は壁面に残る色彩を元に紫色で再現していますが、バチカンのタペストリーやジャンピエトリーノの複製画ではこの部分は黄色で描かれています。
この黄色という色は裏切り者を表す色であり、レオナルドのオリジナルでも黄色で描かれていた可能性は十分ありえる事だと感じます。
胸元の衣服は紫で復元していますが黄色であった可能性も否定できません。
青い衣服の復元
ユダの青い衣服をどのような色で再現するかは非常に悩むところです。
原画ではこの部分はヨハネ、ユダ、ペテロと三人が似たような青で描かれています。そのため、三人の衣服の色をどのように描き分けるのかが難しいのです。
また、バチカンのタペストリーとジャンピエトリーノの複製画ではそれぞれが全く違った色で描かれています。
そのどちらを信用して良いのかも迷います。
最終的にはジャンピエトリーノの暗い紫系の水色で再現してみました。
ユダの右手首手前には倒れた塩壺が描かれていました。


二つの複製画では色に関して全く違う色で描かれている部分もあり、どちらを信用すべきか判断に迷います。
特にユダの右肩から手首にかけての部分は大きな相違があり、単に顔料の退色だけが原因ではないようにも思えます。
一方、テーブル下の描写ではユダの右足の角度が二つの複製画で食い違っている点も気になる点です。


このテーブルから下の部分は原画の保存状態がかなり劣悪で、オリジナルの描画層が完全に失われている部分がかなりの面積を占めています。
ユダの右足も一見、輪郭が残されているように見えますが実はそのほとんどが予測に基づく補筆であり、信頼性はそれほど高いものではありません。
http://leonardoresearch.com/ August 12 2014