

マタイの頭部の保存状態は比較的良好で、修復後は顔の輪郭も暗い背景の中くっきりと浮かび上がっています。
髪の部分はさすがに多くの部分を失っていますが、それでも額から耳までの生え際部分には微かにレオナルドのオリジナルの描画の痕跡が認められます。マタイの髪の毛の色は明るい茶色で描かれていたことも判明し、これらの頭髪の描写は幾分鋭い筆致で一気に描かれているようにも見えます。壁画ということで板絵のような細密な描写とは違う荒い筆のタッチで描かれていた可能性もあります。
また、マタイの少し開いた唇の輪郭も本来の形を取り戻し、付け加えられていたあごひげの描写も取り除かれてすっきりとした若々しい印象のマタイが蘇っています。
マタイの復元に当たっては、現在の壁画が見せている外形とは少し違う形状で復元している部分が何点かあります。
一つ目はマタイ後頭部の髪の毛の描写で、オリジナルでは少し膨らんだ丸い形状を見せていますが、多くの複製画ではこのような形状でマタイの後頭部を描いた例が存在していません。ほとんどの複製画では私が描いた復元図のような形状で後頭部が描かれています。壁画のマタイの後頭部は少し膨らみすぎのように感じます。
次にマタイの肩のラインです。この部分も壁面に残されているラインは信憑性にかけます。この点も多くの複製画とは違った形状を見せている部分になります。おそらく現在壁画で見えている肩のラインの下にうっすらと見えている線がオリジナルの線ではないかと思えます。
そして三番目がマタイの腕のラインです。壁画ではこのマタイの腕の形状がずんぐりとした太い描写となっていますが、実際にはもう少し細く、肘の関節部分で微かに曲げた描写だったことが複製画から確認できます。そのため私の復元図ではマタイの肘の部分を少し下に下げ、軽く曲げている姿勢で描いています。
マタイの色彩の復元に関しては大いに悩む部分が二箇所あります。頭髪の色と衣服の色彩です。
マタイの頭髪は私の復元図では濃い褐色で復元してあります。もっと明るい茶色で復元しても良かったのですが全体としての調和を優先し、あまり目立ちすぎない褐色で仕上げてあります。この部分に関してはもう少し試行錯誤が必要だと感じています。
もう一つの色彩に関する懸念部分はマタイの衣服のグレーズの処理です。
マタイの衣服は青い描写の上に赤いグレーズがかけられ、紫色の衣服となっていたことが壁面に残された顔料などから判明しています。実際に幾つかの複製画ではマタイの衣服は紫系か赤い衣服で描かれているものが何点かあります。
実際にレオナルドが描いたマタイはそういった鮮やかな紫の衣装で表現されていた可能性も高いでしょう。
しかし、この部分に関しても復元図ではジャンピエトリーノの複製画の色を参考にそれほど紫色を強調せずに再現してあります。





1、青いマントに青い衣服ではなく、本来は青いマントに紫の衣服がレオナルドの描いたマタイです。青い衣服の上にから塗られた赤い顔料は経年劣化で退色し、グレーズの効果を失っています。
2、
微かに開いた唇とあごひげのない若々しいマタイの表情の復元。
3、微かに曲げられた肘の描写と肩の輪郭の修正。
4、
マントの復元 。
5、手と足の復元 。マタイの左足はテーブルの脚の手前に描かれており、右足はテーブルの脚の向こう側に微かに描かれています。ポーズ全体としてはかなり強く上半身をひねったポーズであることがわかります。
左図 紫色のマタイ
左の画像はマタイの衣服に赤でグレーズされていた状態を再現したものです。